アメリカ建築家協会(American Institute of Architects)とアメリカ図書館協会(American Library Association)による2022年度のAIA/ALA Library Building Awardsが決定し、5作品が選出されました。例年通り、AIAサイトに記載の内容を意訳してご紹介します(各図書館名の下の「」書きは当会が図書館の特徴を一文で紹介したオリジナルのものです)。
AIA/ALA Library Building Awardsは図書館の全体デザインや構造について、すでに利用されているもののうちから、特に秀逸なものに授与するものとされており、今年度は以下作品が受賞しました。
1.Adams Street Library(ニューヨーク州ブルックリン)
「ブルックリンの歴史的地区のコミュニティ活性化・子供の居場所作りのために100年以上前の建物のリユースに成功した」
ニューヨーク州ブルックリンにあるAdams Street Libraryはリノベーション物件の一つであり、ブルックリン公立図書館としては昨年のLibrary Building Awards 受賞作品であるSunset Park Libraryに続いての受賞となります。
ブルックリン公共図書館システムの分館としては20年以上ぶりに新設することになったAdams Street Library は、その設計思想の中心に地域に暮らす子供たちを据えました。そのためライブラリには学習用スペースの充実化が図られており、若者向けのテクノロジーや豊富なプログラミングの機会が用意されています。この分館は、ブルックリン地域にサービスを提供する最初の分館であり、リノベーションによりモダンで刺激的な空間となった図書館を通じて地域ネットワークを拡大することを目標としています。また図書館のあるダンボ地区を取り囲むブルックリンは近年不動産価格が高騰し、裕福な住宅地域になっている一方で、つながりが希薄になっていることもあり、そういったコミュニティが計画プロセスに関与することも重要視されました。
図書館はブルックリン・ダンボ地区にあるマンハッタン橋の下にある、1901年に建てられた工業用建物内に設置されました。この建物は長年にわたり魚雷工場からリサイクル施設まで様々な目的に使用されてきましたが、現在は住宅用アパートメントと商業スペースが混在しており、その1階に図書館が設置されました。設計チームは、建物が重ねてきた歴史にインスピレーションを得て、古いものと新しいものとの対話を設計に取り入れることに努力しました。
館内は4.5メートルの大きな窓が特徴的であり、ロフトのような形で設けられた子供用エリアからはマンハッタンのスカイラインとイーストリバーの景色を眺めなメインの閲覧室を見つめることができます。煉瓦造りの壁とコントラストをなす子供エリアの陽気なオレンジ色の色調、大部分を占める子供のためのプレイングルームが、この図書館が誰のために設計されたかを強調しています。
またライブラリには、2つの広々とした多目的スペースもあり、地域コミュニティでの使用に必要なスペースを提供します。
図書館の外観は、太字の白い文字で「LIBRARY」と書かれたグラフィックサインを使っていますが、このサインはニューヨーク市のランドマーク保存委員会によって承認されたもので、委員会は地域によくある手書きのグラフィックアートを参考に描かれたものであるとして賞賛をしました。このサインはイーストリバーの対岸からも見ることができます。
2.Asante Library(アリゾナ州サプライズ)
「バリューエンジニアリングを最大化する中で図書館としての機能性を損なうことなく地域環境を維持に成功した」
アリゾナ州サプライズ市にある12エーカーの公園の中に、約900平方メートルからなるこの広い図書館Asante Libraryはあります。図書館からはホワイトタンクマウンテンズの素晴らしい景色を眺めることができ、格子状の外観を持ったこの建物は、そのデザインを通じて、砂漠の木の下で休んでいるときに経験するかもしれないまだらの陽の光と影の相互作用を感じさせることができます。
この図書館はその初期構想の段階から最終的承認を得るまで、市は予算上の制約を受けることになり、事業主体である市、建築業者、および建築家は、長期にわたるバリューエンジニアリングの演習に従事する必要がありました。この独創的なデザインプロセスを通して、プロジェクトに付加された価値と相対的なコストの影響を考慮して全ての決定が行われた結果、プロジェクトは予算を超えることなく、本来の図書館に対するビジョンを維持することができました。
また、図書館を建築することになった公園は地元の緑地帯に沿って水を排出するための貯水池として機能しており、図書館の建設によってその機能が損なわれないようにする必要があり、設計チームは高床式のような形式で新しい図書館を建設することを選択しました。これによって、台座が図書館の土台として機能できるようにしながら、降雨時の水の通り道も確保されることになりました。
図書館の内部は大きく開放的な読書室があり、全面ガラス張りの窓からは近くの山々を一望できます。ガラス張りのワークルームも、スケルトン仕様になっており館内から窓の外への視覚的なつながりを維持しています。見た目だけではなく、施設としても利用者が電源やデータコンセントを好き好きに配置できるようにしています。
図書館の外観はアルミニウム複合パネルで仕上げれられており、図書館の外側を堅牢に保護しています。連続したパネルからフィルタリングされた日光と影、この特徴的な外観は図書館の前の通りから屋外広場に抜ける景色を見事に形成していると言えます。
3.Cruzen-Murray Library(カンザス州コールドウェル)
「図書館を従来形の知の集積地から学生生活を送るための重要な結節点へと変質させることに成功した」
アイダホ州コールドウェルにあるアイダホ大学の新しい図書館Cruzen-Murray Libraryは、明るく風通しの良い環境であり、ここでは学生は自分よりもはるかに大きなものに囲まれているような感覚を味わうことができます。
新しい図書館は、伝統的な図書館に見られるような静かなで閉ざされた空間を避け、学生に知的な交流ができる十分な機会を提供するダイナミックな空間を採用しました。
このプロジェクトの設計チームは書庫・事務室・ミーティングスペースに囲まれ中央に大きな読書室あるような20世紀の図書館のイメージを更新するためのデザインを採用しました。
図書館のエントランスから入ると、利用者は2階部分にアプローチする彫刻のようにあつらえた階段に迎えられます。凸状の杉で出来た天井は空間に温かく音響的に心地よい雰囲気を与え、夜になると、読書室はランタンのように柔らかく輝き、その表情豊かな天井によって効果が増幅されています。
この図書館を構成する教室や事務室は変化するテクノロジーと将来の教育上のニーズの適応性を考慮して、今後の教室の再配置の為に事前に換気・電力・データコンポーネントのアクセシビリティを高める設計がなされています。一方で、図書館全体の構成も西側はパブリックスペースを配置し、東側は研究スペースを配置するなど図書館が従来持っているべき点についても考慮されました。
図書館のファサードは特徴的な穴の空いた金属のシェードで覆われていますが、これは建物の中に利用者を誘い込むようなデザインとなっています。
また、図書館のサステナビリティ向上のために、館内で利用する水は雨水を利用するように、エアコンについても地熱ヒートポンプシステムを利用するなど、エネルギーの消費量を大幅に削減しています。
図書館の開館以来、大学は図書館への訪問が急増したと報告しており、更にこのスペースはキャンパスライフのメインハブとなり、図書館がいかに情報源以上のものであるかを示しています。それ以来、図書館は新しいライティング センターを歓迎し、教育技術のサポートを拡大しており、学生グループやチームは集まりのためにこのスペースを頼りにしています。
4.Indian Creek Library(カンザス州オレイサ)
「地域を襲った災害を好機として捉えアダプティブリユースによって図書館だけではなく地域環境を含めて再構築に成功した」
カンザス州オレイサに作られたIndian Creek Libraryは郊外型の大型小売店のアダプティブリユース(既存建物を用途変更することで保存と再利用の両立を図る手法)の例であり、郊外の自然環境を再構築した好例と言えます。このプロジェクトにより、かつての大型小売店は重要なコミュニティハブとなり、典型的な図書館よりもはるかに価値のあるコミュニティ資産となりました。
このプロジェクトは、2016年に市が2つの図書館分館を拡張することから始まりましたが、図書館を拡張するというだけでなく、より広範な基本計画に基づき進められました。この計画では、2つの図書館に包括的なビジョンをもたらし、Indian Creek Libraryは子供、10代の若者および家族のために作ることを目的としてました。プロジェクトの過程で、地域を大規模な洪水が襲い、既存の図書館建物に深刻な構造的損傷をもたらしましたが、市はこの事件を挫折ではなく、プロジェクトを別の開発コンセプトに遷移させ加速する機会と見なし、空き店舗となっていた大型の商業施設を購入しそれをアダプティブリユースすることとしました。
改築にあたり以前の図書館に欠けていた陽の光を取り入れることと自然とのつながりを提供することを考慮し、商業施設のファサードは完全に取り除かれ、特徴的なまだら模様の格子状のファサードに取り替えられました。図書館は21世紀の図書館はどうあるべきか、そのニーズを満たし従来の図書館の概念を進化させるため、消費するだけではなくコンテンツを作成することに焦点を当てており、エントランスからの最初のアプローチにはメイカースペース(生産者による販売所のような空間)、カフェ、会議室など配置される形になっています。そして主に読書室などの図書館スペースは最も奥に配置されています。
社会における図書館に期待される進化と役割を考えると、Indian Creek Libraryの設計はまさに柔軟性と変化の受け入れており、今後の新しい用途に対応するためにフレックスに再構成できるスペースを備えた広いエリアを持っています。そのフレックスエリアは、COVID-19の際にコミュニティホールドのエリア(おそらく接種会場や相談所のように利用したものと想像されます)として機能するようにすぐに再設計されました。また、そこが重要なコミュニティ資産となるため設計チームは自然がない小売するだけだった環境を変質させる必要性を感じており、自然環境と健康を図書館の日常体験に組み込むことも重視しました。図書館はIndian Creekのトレイルコースにも隣接しており、今後のビジョンには重要なトレイル拠点として機能することも期待されています。
5.Martin Luther King Jr. Memorial Library(ワシントンD.C.)
「遺産的・記念碑的建物の価値を損なうことなくアップデートに成功した」
ワシントンD.C.にあるMartin Luther King Jr. Memorial Libraryはワシントン D.C. 公共図書館システムの一つですが、老朽化したインフラストラクチャを改修する野心的な取り組みを実行しました。もともとこの図書館はミース・ファン・デル・ローエによって設計され、1970年代から情報化を推進する社会的エンジンとして重要な文化的複合施設でした。
図書館の改修は、地区にある約20の図書館システム全体を活性化するための長年にわたる取り組みの一環でした。プロジェクトの開始時から、設計チームは設計の方向性を明確にする為に公開討論を通じて、幅広い利害関係者と関わりました。チームは定期的な公聴会を実施し、市・州・連邦機関との厳格な権利付与プロセスを主導しました。
この図書館はワシントンにある世界的建築家のミースの唯一の建物であり、同市にキング牧師を称える地区で最初の記念碑でした。歴史的に重要な建築物である為、取り壊しや移転に関する議論はすでに存在せず、設計チームの最優先事項は、ミースとキング牧師の遺産の間で公平かつ適切なバランスを見つけることでした。これはすべての設計と修復の決定プロセスにおいて重要なポイントとなりました。
新しいデザインの中心的な目的は、コミュニティの社交場としての図書館の目的と、コミュニティのランドマークとしての存在感の強調でした。
当然ミースの大いなる遺産を残すために、直線的な黒いガラスと鋼で構成される美しいファサードを残しつつ、館内に木の曲線的フォルムの多用した設計を盛り込むなどしてコントラストを強調しています。また既存の建物に新たに5階部分を増築し、屋上庭園を設置しましたが、そこにアクセスする階段も直感性を重視した設計を盛り込み、館内のアクセシビリティを向上させる取組みを随所に感じることができるようになっています。
また遺産を活用するで、改修によりLEED認証システム(建物と敷地利用の環境性能を様々な視点から評価するための認証)への適応についても対応しており、LEEDシルバー基準を満たすことを目的としてて設計されました。
このAIA/ALA Library Building Awardsは、建築物としての図書館のデザインや構造を評価するものですが、それだけでなく開設に至るまでのプロセスやその地域の歴史、資産、文化、コミュニティのあり方(過去・現在・そして未来)も含めて評価されています。
例年、図書館施設が地域の「持続可能性」に如何に資しているかという点が、評価軸となっていると考えられますが、今年のその観点は維持されたものと感じます。
そしてそれに加えて今回の受賞作品の多くから感じたのは図書館の「変質」です。
日本においてもCOVID-19によって従来のような図書館の利用ができなくなり、地域における図書館が単に知の集積地であるだけなのか、その在り方を再考する必要性が高まる中で、今回受賞した各図書館は、その設計段階ではCOVID-19が流行する前であったことが多いと思いますが、それでも将来にわたって図書館の在り方は変容するべきであるという考えが、プロジェクト推進者の中に明確に在った結果だと考えられます。