2022年 AIA/ALA Library Building Awards 受賞作品決定

アメリカ建築家協会(American Institute of Architects)アメリカ図書館協会(American Library Association)による2022年度のAIA/ALA Library Building Awardsが決定し、5作品が選出されました。例年通り、AIAサイトに記載の内容を意訳してご紹介します(各図書館名の下の「」書きは当会が図書館の特徴を一文で紹介したオリジナルのものです)。

AIA/ALA Library Building Awardsは図書館の全体デザインや構造について、すでに利用されているもののうちから、特に秀逸なものに授与するものとされており、今年度は以下作品が受賞しました。

1.Adams Street Library(ニューヨーク州ブルックリン)

「ブルックリンの歴史的地区のコミュニティ活性化・子供の居場所作りのために100年以上前の建物のリユースに成功した」

ニューヨーク州ブルックリンにあるAdams Street Libraryはリノベーション物件の一つであり、ブルックリン公立図書館としては昨年のLibrary Building Awards 受賞作品であるSunset Park Libraryに続いての受賞となります。

ブルックリン公共図書館システムの分館としては20年以上ぶりに新設することになったAdams Street Library は、その設計思想の中心に地域に暮らす子供たちを据えました。そのためライブラリには学習用スペースの充実化が図られており、若者向けのテクノロジーや豊富なプログラミングの機会が用意されています。この分館は、ブルックリン地域にサービスを提供する最初の分館であり、リノベーションによりモダンで刺激的な空間となった図書館を通じて地域ネットワークを拡大することを目標としています。また図書館のあるダンボ地区を取り囲むブルックリンは近年不動産価格が高騰し、裕福な住宅地域になっている一方で、つながりが希薄になっていることもあり、そういったコミュニティが計画プロセスに関与することも重要視されました。

図書館はブルックリン・ダンボ地区にあるマンハッタン橋の下にある、1901年に建てられた工業用建物内に設置されました。この建物は長年にわたり魚雷工場からリサイクル施設まで様々な目的に使用されてきましたが、現在は住宅用アパートメントと商業スペースが混在しており、その1階に図書館が設置されました。設計チームは、建物が重ねてきた歴史にインスピレーションを得て、古いものと新しいものとの対話を設計に取り入れることに努力しました。

Adams Street Library内部(アメリカ建築家協会HPより)

館内は4.5メートルの大きな窓が特徴的であり、ロフトのような形で設けられた子供用エリアからはマンハッタンのスカイラインとイーストリバーの景色を眺めなメインの閲覧室を見つめることができます。煉瓦造りの壁とコントラストをなす子供エリアの陽気なオレンジ色の色調、大部分を占める子供のためのプレイングルームが、この図書館が誰のために設計されたかを強調しています。
またライブラリには、2つの広々とした多目的スペースもあり、地域コミュニティでの使用に必要なスペースを提供します。
図書館の外観は、太字の白い文字で「LIBRARY」と書かれたグラフィックサインを使っていますが、このサインはニューヨーク市のランドマーク保存委員会によって承認されたもので、委員会は地域によくある手書きのグラフィックアートを参考に描かれたものであるとして賞賛をしました。このサインはイーストリバーの対岸からも見ることができます。

2.Asante Library(アリゾナ州サプライズ)

「バリューエンジニアリングを最大化する中で図書館としての機能性を損なうことなく地域環境を維持に成功した」

アリゾナ州サプライズ市にある12エーカーの公園の中に、約900平方メートルからなるこの広い図書館Asante Libraryはあります。図書館からはホワイトタンクマウンテンズの素晴らしい景色を眺めることができ、格子状の外観を持ったこの建物は、そのデザインを通じて、砂漠の木の下で休んでいるときに経験するかもしれないまだらの陽の光と影の相互作用を感じさせることができます。

この図書館はその初期構想の段階から最終的承認を得るまで、市は予算上の制約を受けることになり、事業主体である市、建築業者、および建築家は、長期にわたるバリューエンジニアリングの演習に従事する必要がありました。この独創的なデザインプロセスを通して、プロジェクトに付加された価値と相対的なコストの影響を考慮して全ての決定が行われた結果、プロジェクトは予算を超えることなく、本来の図書館に対するビジョンを維持することができました。
また、図書館を建築することになった公園は地元の緑地帯に沿って水を排出するための貯水池として機能しており、図書館の建設によってその機能が損なわれないようにする必要があり、設計チームは高床式のような形式で新しい図書館を建設することを選択しました。これによって、台座が図書館の土台として機能できるようにしながら、降雨時の水の通り道も確保されることになりました。

図書館の内部は大きく開放的な読書室があり、全面ガラス張りの窓からは近くの山々を一望できます。ガラス張りのワークルームも、スケルトン仕様になっており館内から窓の外への視覚的なつながりを維持しています。見た目だけではなく、施設としても利用者が電源やデータコンセントを好き好きに配置できるようにしています。
図書館の外観はアルミニウム複合パネルで仕上げれられており、図書館の外側を堅牢に保護しています。連続したパネルからフィルタリングされた日光と影、この特徴的な外観は図書館の前の通りから屋外広場に抜ける景色を見事に形成していると言えます。

3.Cruzen-Murray Library(カンザス州コールドウェル)

「図書館を従来形の知の集積地から学生生活を送るための重要な結節点へと変質させることに成功した」

Cruzen-Murray Library外観(アメリカ建築家協会HPより)

アイダホ州コールドウェルにあるアイダホ大学の新しい図書館Cruzen-Murray Libraryは、明るく風通しの良い環境であり、ここでは学生は自分よりもはるかに大きなものに囲まれているような感覚を味わうことができます。
新しい図書館は、伝統的な図書館に見られるような静かなで閉ざされた空間を避け、学生に知的な交流ができる十分な機会を提供するダイナミックな空間を採用しました。

このプロジェクトの設計チームは書庫・事務室・ミーティングスペースに囲まれ中央に大きな読書室あるような20世紀の図書館のイメージを更新するためのデザインを採用しました。
図書館のエントランスから入ると、利用者は2階部分にアプローチする彫刻のようにあつらえた階段に迎えられます。凸状の杉で出来た天井は空間に温かく音響的に心地よい雰囲気を与え、夜になると、読書室はランタンのように柔らかく輝き、その表情豊かな天井によって効果が増幅されています。
この図書館を構成する教室や事務室は変化するテクノロジーと将来の教育上のニーズの適応性を考慮して、今後の教室の再配置の為に事前に換気・電力・データコンポーネントのアクセシビリティを高める設計がなされています。一方で、図書館全体の構成も西側はパブリックスペースを配置し、東側は研究スペースを配置するなど図書館が従来持っているべき点についても考慮されました。
図書館のファサードは特徴的な穴の空いた金属のシェードで覆われていますが、これは建物の中に利用者を誘い込むようなデザインとなっています。
また、図書館のサステナビリティ向上のために、館内で利用する水は雨水を利用するように、エアコンについても地熱ヒートポンプシステムを利用するなど、エネルギーの消費量を大幅に削減しています。

図書館の開館以来、大学は図書館への訪問が急増したと報告しており、更にこのスペースはキャンパスライフのメインハブとなり、図書館がいかに情報源以上のものであるかを示しています。それ以来、図書館は新しいライティング センターを歓迎し、教育技術のサポートを拡大しており、学生グループやチームは集まりのためにこのスペースを頼りにしています。

4.Indian Creek Library(カンザス州オレイサ)

「地域を襲った災害を好機として捉えアダプティブリユースによって図書館だけではなく地域環境を含めて再構築に成功した」

カンザス州オレイサに作られたIndian Creek Libraryは郊外型の大型小売店のアダプティブリユース(既存建物を用途変更することで保存と再利用の両立を図る手法)の例であり、郊外の自然環境を再構築した好例と言えます。このプロジェクトにより、かつての大型小売店は重要なコミュニティハブとなり、典型的な図書館よりもはるかに価値のあるコミュニティ資産となりました。

Indian Creek Library外観(アメリカ建築家協会HPより)

このプロジェクトは、2016年に市が2つの図書館分館を拡張することから始まりましたが、図書館を拡張するというだけでなく、より広範な基本計画に基づき進められました。この計画では、2つの図書館に包括的なビジョンをもたらし、Indian Creek Libraryは子供、10代の若者および家族のために作ることを目的としてました。プロジェクトの過程で、地域を大規模な洪水が襲い、既存の図書館建物に深刻な構造的損傷をもたらしましたが、市はこの事件を挫折ではなく、プロジェクトを別の開発コンセプトに遷移させ加速する機会と見なし、空き店舗となっていた大型の商業施設を購入しそれをアダプティブリユースすることとしました。

改築にあたり以前の図書館に欠けていた陽の光を取り入れることと自然とのつながりを提供することを考慮し、商業施設のファサードは完全に取り除かれ、特徴的なまだら模様の格子状のファサードに取り替えられました。図書館は21世紀の図書館はどうあるべきか、そのニーズを満たし従来の図書館の概念を進化させるため、消費するだけではなくコンテンツを作成することに焦点を当てており、エントランスからの最初のアプローチにはメイカースペース(生産者による販売所のような空間)、カフェ、会議室など配置される形になっています。そして主に読書室などの図書館スペースは最も奥に配置されています。

社会における図書館に期待される進化と役割を考えると、Indian Creek Libraryの設計はまさに柔軟性と変化の受け入れており、今後の新しい用途に対応するためにフレックスに再構成できるスペースを備えた広いエリアを持っています。そのフレックスエリアは、COVID-19の際にコミュニティホールドのエリア(おそらく接種会場や相談所のように利用したものと想像されます)として機能するようにすぐに再設計されました。また、そこが重要なコミュニティ資産となるため設計チームは自然がない小売するだけだった環境を変質させる必要性を感じており、自然環境と健康を図書館の日常体験に組み込むことも重視しました。図書館はIndian Creekのトレイルコースにも隣接しており、今後のビジョンには重要なトレイル拠点として機能することも期待されています。

5.Martin Luther King Jr. Memorial Library(ワシントンD.C.)

「遺産的・記念碑的建物の価値を損なうことなくアップデートに成功した」

ワシントンD.C.にあるMartin Luther King Jr. Memorial Libraryはワシントン D.C. 公共図書館システムの一つですが、老朽化したインフラストラクチャを改修する野心的な取り組みを実行しました。もともとこの図書館はミース・ファン・デル・ローエによって設計され、1970年代から情報化を推進する社会的エンジンとして重要な文化的複合施設でした。

図書館の改修は、地区にある約20の図書館システム全体を活性化するための長年にわたる取り組みの一環でした。プロジェクトの開始時から、設計チームは設計の方向性を明確にする為に公開討論を通じて、幅広い利害関係者と関わりました。チームは定期的な公聴会を実施し、市・州・連邦機関との厳格な権利付与プロセスを主導しました。
この図書館はワシントンにある世界的建築家のミースの唯一の建物であり、同市にキング牧師を称える地区で最初の記念碑でした。歴史的に重要な建築物である為、取り壊しや移転に関する議論はすでに存在せず、設計チームの最優先事項は、ミースとキング牧師の遺産の間で公平かつ適切なバランスを見つけることでした。これはすべての設計と修復の決定プロセスにおいて重要なポイントとなりました。

新しいデザインの中心的な目的は、コミュニティの社交場としての図書館の目的と、コミュニティのランドマークとしての存在感の強調でした。
当然ミースの大いなる遺産を残すために、直線的な黒いガラスと鋼で構成される美しいファサードを残しつつ、館内に木の曲線的フォルムの多用した設計を盛り込むなどしてコントラストを強調しています。また既存の建物に新たに5階部分を増築し、屋上庭園を設置しましたが、そこにアクセスする階段も直感性を重視した設計を盛り込み、館内のアクセシビリティを向上させる取組みを随所に感じることができるようになっています。
また遺産を活用するで、改修によりLEED認証システム(建物と敷地利用の環境性能を様々な視点から評価するための認証)への適応についても対応しており、LEEDシルバー基準を満たすことを目的としてて設計されました。

このAIA/ALA Library Building Awardsは、建築物としての図書館のデザインや構造を評価するものですが、それだけでなく開設に至るまでのプロセスやその地域の歴史、資産、文化、コミュニティのあり方(過去・現在・そして未来)も含めて評価されています。
例年、図書館施設が地域の「持続可能性」に如何に資しているかという点が、評価軸となっていると考えられますが、今年のその観点は維持されたものと感じます。
そしてそれに加えて今回の受賞作品の多くから感じたのは図書館の「変質」です。
日本においてもCOVID-19によって従来のような図書館の利用ができなくなり、地域における図書館が単に知の集積地であるだけなのか、その在り方を再考する必要性が高まる中で、今回受賞した各図書館は、その設計段階ではCOVID-19が流行する前であったことが多いと思いますが、それでも将来にわたって図書館の在り方は変容するべきであるという考えが、プロジェクト推進者の中に明確に在った結果だと考えられます。

2021年 AIA/ALA Library Building Awards 受賞作品決定

アメリカ建築家協会(American Institute of Architects)アメリカ図書館協会(American Library Association)による2021年度のAIA/ALA Library Building Awardsが決定し、5作品が選出されました。例年通り、AIAサイトに記載の内容を意訳してご紹介します。

受賞作の一つ「Sunset Park Library」(アメリカ建築家協会HPより)

AIA/ALA Library Building Awardsは図書館の全体デザインや構造について、すでに利用されているもののうちから、特に秀逸なものに授与するものとされており、今年度は以下作品が受賞しました。

1.Arizona State Library Hayden Library Reinvention

「既存の図書館の遺産的存在とも言える特徴的な外観を維持しつつ、研究施設としてのアップグレード、環境配慮型の施設にアップデートを達成した」

アリゾナ州に1966年に開校したアリゾナ州立大学のHayden Libraryは学内の8つの図書館の1つであり、60万冊の蔵書を誇り、約2万人の学生にサービスを提供していました。また、毎年200万人近くの訪問者がいます。
いま州立大学は総合的な研究大学としての使命に再び焦点を合わせてきました。この中で大学とアリゾナ州は多様性Hayden Libraryを再発見しました。
このプロジェクトでは元の建物を慎重に改修し、大学のプログラムをサポートする約2,800平方メートルを超えるインフラと柔軟なスペースを挿入しました。これにより、Hayden Libraryの外観と特徴的なファサードは維持され、その建築遺産を尊重する21世紀の施設として再建されました。
もちろん図書館そのものの改修だけでなく、キャンパス全体の接続性を強化するために、例えば余計な壁や空間となっていた部分を排除し、視覚的にも物理的にも図書館に至る経路を明らかにし、図書館とキャンパスを再接続することの強化も図られました。また既存の建物を再利用することで、図書館は元の特徴を維持したことで排出ガス量も今まで通りとなり(対比率95%程度)、アップグレードされた証明と空調システムによってエネルギー費用はほぼ50%の削減ができたとのことです。

2.Roxbury Branch of the Boston Public Library Renovation

Roxbury Branch of the Boston Public Library(アメリカ建築家協会HPより)

「地域に馴染んでいたとは言えなかった図書館を、開放的でアクセシブルなコミュニティ施設へ変容させた」

マサチューセッツ州ボストンの歴史的な黒人コミュニティの中心であるヌビアンスクエアに位置するボストン公立図書館のロクスベリー支部は、1978年に設計され建設されました。
当時の図書館は、コンクリートとガラスのブロック壁からなるファサードによって近隣から隔離され、地域住民のための結節点としては最小限の役割にとどまっていましたが、2020年の改修により図書館は誰もがアクセスできる温かく居心地の良いコミュニティハブに変わりました。
プロジェクトチームは2013年にファサードの改善から始め、視界を遮っていたファサードは周囲のコミュニティとのより深いつながりを育む透明なガラスに置き換えられました。この美しく革新的な木材とガラスのカーテンウォールは、図書館の読書室に入る自然光をフィルタリングしつつ、エネルギー消費を削減するのに役立っています。
図書館の正面玄関は、補強されたエントリーと新しい緑地を備え、ヌビアンスクエアの再建された広場に面するように移転され、テラコッタの日よけのおかげで人々が集まる場所としても機能するようになりました。
図書館内部は既存のデザインを活かしつつ、自然光を取り入れるために、内部のガラス壁と2階の一部が取り除かれました。図書館のアフリカ系アメリカ人コレクションは、正面玄関に隣接する新しく設けられたスペースで展示されています。閲覧室の規模は維持されましたが、ダクトや照明、看板を移動して、部屋全体の視野を広げました。既存の露出したコンクリートは、木製の本棚や天井の調整板などによって柔らかい印象を与えています。
閲覧室は年齢に適したゾーンに分割され、子供たちの知的探究心をくすぶるだけでなく、地域の施設を使い学ぶことの喜びを引き起こします。
改築により単に図書館というだけでなく、サービスを提供するためのコミュニティ施設にシフトしました。

3.Sunset Park Library

Sunset Park Library 内部(アメリカ建築家協会HPより)

「暫定的な施設でありながら、最小限の予算と地域の若者たちとの協業により、地域の古い施設を見事にアップグレードしてみせた」

ニューヨーク州ブルックリン公立図書館の全拠点の中で最も忙しい図書館の1つである Sunset Park Library は新施設を建設するにあたり、既存の機能を閉鎖するのではなく、1931年に建てられた古い庁舎に暫定的に残置する事で、その施設そのものを活気あるものに変質させました。今回の措置にあたり、ニューヨーク州は周辺地域の社会福祉と文化的ニーズを満たすために古い郡庁舎を寄付しました。
図書館は施設の1階を占めますが、以前の施設の半分のサイズになり、プロジェクトチームは与えられた最小限のフロアと厳しい予算の中で、変化するニーズに適応できる柔軟な空間とテクノロジーを提供することに成功しました。 図書館はスペイン語、中国語、アラビア語、英語を話す地域の常連の利用者を歓迎し、多文化な地域であることを反映したデザインも取り入れられました。中央の多目的室の周りに、子供向けの読書エリアや明るく照らされたメインの読書室などを配置し、陰気なだった南側のエントランスをリフレッシュし、活気のあるコミュニティハブに変えました。もちろん館内の案内板もまた多言語仕様となっています。
改築にかかった150万ドルの予算の多くが歴史的建造物を現在の電気および防火基準に適合させるために費やされたものでした。館内の調度の多くは、以前の図書館で使っていた物の再利用または修理された部品で構成され限られた予算をうまく活用しました。
図書館の最もユニークで創造的な特徴の1つは、地元の若者の雇用プログラムに登録した高校生とのコラボレーションであり、その結果、図書館の窓を飾るアートインスタレーションを作るデザインプロセスが生まれました。これはシェーディングシステムの予算に余裕がなかったことの裏返しと言えますが、プロジェクトチームと学生たちは独自で価値のあるシェードを作り上げました。このコラボによって作られたシェードは読書室に差し込む光のまぶしさを軽減するのに役立ちつつ、晴れた日には読書室にシェードに形どられたアニメーションの影を落としていきます。

4.Taylor Street Apartments and Little Italy Branch Library

Taylor Street Apartments and Little Italy Branch Library 内部(アメリカ建築家協会HPより)

イリノイ州シカゴの図書館としては昨年のNorthtown Branch Library and Apartmentsに続いての受賞になります。

「公共施設と住居の共存を、それぞれの価値を最大化することで実現したと言える」

シカゴのTaylor Street Apartments と Little Italy Branch Libraryは、住宅と公共図書館を融合させた新しい形の建築物です。これはシカゴ住宅局とシカゴ公立図書館の共同プロジェクトでもあり、周囲のコミュニティの重要なハブとして機能します。
施設は道路の角に位置することからその立地を活かしつつ、周囲の住環境を尊重するために、プロジェクトチームは建物を意図的にずらし、新しい公共スペースを作成し、隣接するコミュニティガーデンであるTaylor Street Farmを保護しました。道路の角地という目立つ場所にあるこの建物は、幅広い年齢層に向けに設計され、明るくそびえ立つその建物は地域の常連客を熱心に誘い込んでいます。
図書館の内部空間と住居設備は、温かみのある木の色調、色付きのフェルト天井要素、鮮やかな壁のグラフィックとむき出しのコンクリートを組み合わせています。住宅部分は、床から天井まで窓があり、室内に十分な日光を取り込み、居住者は共同庭園を見下ろしながら、シカゴの象徴的なスカイラインを一望できます。共有スペースや屋上緑地など、多くのスペースは共同生活を念頭に置いて設計されました。
建物の公的役割と私的役割の2つにより、建物の屋上緑地は地域のヒートアイランド現象を削減するために資し、駐輪スペースや低排出ガス車の優先スペースを設けるなど、施設そのものの持続可能性に対して総合的なアプローチを取った結果が反映されています。

5.Valente Library

「歴史ある図書館を地域住民のためにアップデートするということに留まらず、多様性・COVID-19への対応など社会正義の実現のための存在へとアップグレードしてみせた」

マサチューセッツ州ケンブリッジにある約1,000平方メートルのValente Libraryは、非常に大きなコミュニティに焦点を当てた複合施設とも言えます。施設は以前の2倍以上の大きさとなり、周辺の学校と地域の大きなコミュニティの双方にサービスを提供し、すべての年齢の利用者に学習スペースを提供し、市民活動の活性化を促しました。
図書館を含む包括的な複合施設は、長い間この都市にとって不可欠でした。 1896年に図書館のある公園として最初にオープンして以来、地域住民が活用できるオープンスペースと本への平等なアクセスを提供してきました。最初の図書館は、1961年に開校した Cambridge Street 高等学校に取って代わるまで、60年以上にわたって公園の中心にありました。2019年に図書館が最新化されるにあたり、都市と公園を再接続し、図書館を重要なコミュニティの場および教育リソースとして位置付けました。
この施設の最も公共的な要素として、図書館のファサードは隣接する高校の湾曲した外観を反映していますが、テラコッタの代わりにガラスを選択し、木製の天井は差し込む日光を柔らかくし、施設全体の透明感は利用者を招き入れるのに役立っています。図書館のエントランスは、学生と図書館利用者の両方が直接入ることができるように配置され、エントランスから入ってくる人々を歓迎する体験が待っています。エントランスにはスタッフが控える受付があり、そこからコミュニティルーム、仕事・研究・遊び体験の場所が配置されています。これらは21世紀にあるべき多くの図書館と同様に、Valente Libraryの設計は、単に書籍を保管するという場所から、情報の収集やアイデアの交換を行う場所に焦点を移しています。
プロジェクトチームは当時から施設で愛されていた機能の1つである図書館の庭園を再現しつつ、プロジェクトのコアバリューの1つとして社会正義を受け入れることを重視しました。
具体的には、図書館は50以上の異なる言語が話されている街の文化的多様性を反映し、施設デザインにはユニバーサルデザインを取り入れ、図書館のWi-Fiは、COVID-19により図書館が閉鎖されている間でさえ、都市に不可欠なインターネットアクセスを提供しました。また、ボッチャ(障害者競技の一つ)コートは通りに面した所に目立つように配置されました。既存の屋外アートワークも改装され、図書館のデザインに統合されました。

このAIA/ALA Library Building Awardsは、建築物としての図書館のデザインや構造を評価するものですが、それだけでなく開設に至るまでのプロセスやその地域の歴史、資産、文化、コミュニティのあり方(過去・現在・そして未来)も含めて評価されています。
昨年は「持続可能性」が評価軸となっていたと考えられますが、今年の評価軸も、旧来から利用されていた施設をアップデート・リフォームした施設が多かったことから、持続可能性は意識されたものと感じます。また、COVID-19に対するプロジェクト化にくわえて、人々が物理的に離れ離れにならざるを得ない状況下でいかに図書館が地域との結節点(人々が行き交うハブポイントとしてだけでなく、協業できる場所、人々に利益を与えられる場所)であるべきか、という意識を強く感じました。日本においてもCOVID-19によって図書館が休館せざるを得なくなった状況を昨年から目の当たりにしてきましたが、これから図書館という施設がどうあるべきかこういった例を参照していくことも重要であると思います。

2021年日本建築学会賞 受賞作品決定

4月19日に2021年の日本建築学会賞が発表され、今年の作品賞は「京都市美術館」と「島キッチン」、「上勝ゼロ・ウェイストセンター」の三作品が選出されました。尚、作品選奨は新型コロナウィルス(COVID-19)の影響により選考がされず選出はありませんでした。

京都市美術館(日本建築学会公式HPより)

本建築学会賞は国内の建築関連の賞としては歴史が古く、作品賞の他に論文や技術、功績各賞があります。作品賞は「近年中、国内に竣工した建築(庭園・インテリア、その他を含む)の単独の作品であり、社会的、文化的見地からも極めて高い水準が認められる独創的なもの、あるいは新たな建築の可能性を示唆するもので、時代を画すると目される優れた作品」と定義され、1949年に設置されました。

今回の選出作品はストック型都市の実現(京都市美術館)、SDGsの実現(上勝ゼロ・ウェイストセンター)、地域共同体の結点の実現(島キッチン)と様々な視点で選出された印象です。特に島キッチンに至っては、従来作品賞にて選出されてきたザ・建築といったものとは一線を画したものであり、面白い選出だったと感じます。

京都芸術センター 続々とイベント再開

京都芸術センターは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受けて、2月の暮れから各種イベントの開催を中止または延期としてきました。

イベント自粛の期間中、芸術センターは京都市で居住・活動をする文化芸術活動に関わる人々が置かれている状況や、活動を再開し持続するためのニーズの調査や、奨励金制度の案内を行い、6月には生花のプレゼンテーションをオンラインで公開する「京都いけばなプレゼンテーション2020」を展開しつつ、イベント再開の目処を図っていました。

そして7月に入り、芸術センターでの市民狂言会の再会を決定し、続々とイベントのスケジュールが決まっています。「市民狂言会」は1957年(昭和32年)から京都市が主催で開催しているもので、年内は8月、10月、12月開催を予定しています。
それに先立ち、7月11日から8月30日にかけて出展作家の肉体を使った表現を体感できる展覧会である「ニューミューテーション#3 菊池和晃・黒川岳・柳瀬安里」も開催されます。この展覧会はウィズ・コロナ時代に産み出される表現というのもがどういうものなのかを問うたものだそうです。

気軽に訪問をしていた以前とは状況が異なる中で、芸術センターとしても手探りでの再開とはなると思います。ウィズ・コロナ時代の芸術のフロントラインにある芸術センターの今後の活動にも注目していきたいです。

(7/15追記)東京では劇場において、感染者約40名と濃厚接触者800名というクラスターが発生しました。体調が優れない方は訪問を再検討し、訪問される方も感染症対策を十分に取り、細心の注意をはらうようにしましょう。


当会のCOVID-19関連の投稿はこちらを参照ください。
国立国会図書館や各都道府県の図書館のサービス(開館状況、利用可能なサービスなど)情報はこちらを参照ください。

大阪市「こども本の森 中之島」開館

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により開館が延期されていた「こども本の森 中之島」が本日7月5日に開館しました。

「こども本の森 中之島」は大阪出身の建築家である安藤忠雄氏からの提案により構想が始まった施設です。
安藤氏が設計・建設をした上で大阪市に寄付を行い、開設・運営の費用を寄附金の形で広く募り、計画段階においては蔵書約2万5千冊のうち、約1万冊を寄贈により収集することをめざしていました(現在は寄贈の受付はしていないようです)。

開館当日時点では蔵書は1万8千冊であり、子供たちの好奇心に寄り添うように「自然とあそぼう」や「動物が好きな人へ」「未来はどうなる」など12のテーマで選書がなされています。図書の貸し出しは行っていませんが、中之島公園内への持ち出しは申し出ればできるとのことです(閉館時間の17時までに返却)。

当面の間は事前予約により入館となっているそうですが、今後、地域とこどもたちに根付いた施設になっていくことを期待したいです。


<基本情報>
H P   :https://kodomohonnomori.osaka
住所  :大阪市北区中之島1-1-28
電話番号:06-6204-0808
開館時間:9:30-17:00
閉館日 :毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は開館し、翌平日は休館)、蔵書整理期間、年末年始
バリアフリー(施設):多目的トイレ、エレベーター
バリアフリー(図書):音訳者、文書読み上げ機


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新型コロナウイルス感染症「緊急事態宣言」部分解除と図書館のサービス再開相次ぐ

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の「緊急事態宣言」が5月14日に解除されたことに伴い、全国の図書館が続々とサービスを再開させています。

緊急事態宣言は、4月7日に新型コロナウイルス感染症が広がりつつあった地域に限定して5月6日を期限に発出され、続き全国に適用されました。その後、全47都道府県を対象に期限を5月31日まで延長されていましたが、同時に14日を目処に感染が減ってきた地域では見直すと予告しており、同日の会見と同時に39県で解除がされました。

解除となった都道府県や、解除がされていない地域でも緩和基準を満たした府県(大阪・京都・兵庫)の図書館は来館を含めたサービスを再開させました。

この内大阪では大阪府立中央図書館が16日に利用再開をしました。府独自の基準「大阪モデル」の段階的な自粛解除方針に基づく開館で、当面は閲覧席と学習スペースを閉鎖し、新聞さ雑誌の閲覧も禁止し、滞在時間も30分程度とすることとしているそうです。
尚、府立図書館 中之島図書館の至近にて開館が延期されている「こどもの本の森 中之島」については、現時点ではオープン時期未定とのことです。


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saveMLAK「COVID-19の影響による図書館の動向調査(2020年4月23日)」結果と自宅での図書館サービスの利用について

新型コロナウイルスの蔓延は図書館の経営にも大きな影響を与えています。

本日時点で、国立国会図書館の本館と子ども図書館は3月から、関西館は4月から5月20日まで休館とし、各地の公共図書館も非常事態宣言の終了日まで休館とする措置をとっています。

こういった休館措置などの動向を、博物館・美術館、図書館、文書館、公民館の被災・救援情報を展開するsaveMLAKが、日本の公共図書館・公民館図書室等を対象に「COVID-19(いわゆる新型コロナウイルス)の影響による図書館の動向調査」を実施し、その結果を発表しました。

調査は4月22日〜23日にかけて全国の図書館や公民館図書室等1626館のウェブサイトから情報をサーベイし集約しました。

調査の結果、都道府県立図書館は47館中43館(休館率:91%)が休館し、市町村立図書館(図書室)は1579館中1387館(休館率:88%)が休館し、合計して1430館(休館率:88%)が休館しているとのことです。休館率は前回調査(4月16日)の57%から31ポイントUPした形となります。

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休館率推移(「COVID-19(いわゆる新型コロナウイルス)の影響による図書館の動向調査」より)

休館が進むことによって図書館としても従来の図書館でのサービス提供が行えなくなりますが、予約図書の宅配や、電子書籍やデータベースなどオンラインサービスの利用を推奨したり、新型コロナウイルスに関連する情報や学習の代替手段などインターネット上の情報源を案内などの在宅でのサービス利用を進めているそうです。

冒頭の国立国会図書館は来館だけでなく、遠隔複写などのサービスを休止している一方で、オンラインでのサービスは引き続き展開しており、国立国会図書館デジタルコレクションや子ども向けのキッズページなどが利用可能です。
最寄りの図書館も休館に伴うオンラインサービスの提供などについては各館のホームページなどで確認可能です。

また、図書を読むというレベルでは、国内では著作権切れの小説などを有志でWeb化した青空文庫、海外では「National Emergency Library」(国立緊急図書館)など民間組織がサービス展開をしており、自宅から出ることなく読書を楽しむことができます。

新型コロナウイルス感染症はまだ収束する気配を見せない中、図書館の休館はまだ継続されそうですが、図書の利用や情報の収集はウェブなどを活用し、StayHOMEを心がけるようにしましょう。


当会のCOVID-19関連の投稿はこちらを参照ください。
国立国会図書館や各都道府県の図書館のサービス(開館状況、利用可能なサービスなど)情報はこちらを参照ください。

新型コロナウイルス感染症によって存続の危機に直面している小規模映画館の支援続々

新型コロナウイルス感染症によって多くの映画館、特に小規模な劇場は事業に多大な影響が出てきています。その状況を救おうと支援が続々始まっています。

俳優の井浦新氏や是枝裕和監督などが小規模映画館の存続を訴え、# SaveTheCinema「ミニシアターを救え!」プロジェクトが始動しました。支援者らによって緊急支援を求める要望書は既に作成され、立ち上げ準備中の「ミニシアター・エイド基金」とも連携するなど、具体的な施策を始めています。4月13日にはモーションギャラリーでもクラウドファンディングがスタートするそうです。

また、各地の映画館も独自にクラウドファンディングを利用して活動を始めています。

2017年に「映画館×本屋×カフェの融合ビル「出町座(仮)」(京都)事業立ち上げ」で紹介した出町座は、クラウドファンディングを利用して事業の立ち上げ資金を集めましたが、今回はコロナ禍が終わってから出町座に訪問した際に使える「出町座未来券」のプロジェクトを始めました。
他にも関西のミニシアターが合同で立ち上げた「Save our local cinemas〈関西劇場応援Tシャツ販売〉」といった運動もスタートしました。

文化の火を絶やさない強い思いの下、続々と支援が始まってきています。
今はクラウドファンディングやネット署名など、外出しなくてもできる支援の形もありますので、ご理解を頂いた方には是非とも協力をお願いしたい所存であります。


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